長渕剛さんの父ちゃんの詩・・・

僕の崇拝する長渕剛さんのお父さんが亡くなられた・・・。

心よりご冥福をお祈りいたします。

数々の長渕剛さんの詩には父の優しさ、強さがあふれていました。

LICENSEという詩のくだりにはその姿が読み取れます。

家族という詩にも・・・。 かこつけるところなく親父をおふくろを正面から発する孤高のソングライターであると思っております。

それは長渕剛さんが最期の親父に向けた詩の中でも分かることでしょう。

これからの長渕剛さんの詩にどのような魂が宿るのか楽しみであります。

ますますの感動ある詩を永く書き続けてほしいと思います。

★父ちゃんの詩

眉間にしわをよせ、ぐーっと息を飲み込み、さっき俺の父ちゃんが死んだ。

あんなに強かった父ちゃんが死んじまった。

ここは駒沢、国立東京医療センター802号室。心電図、血圧計、酸素吸入器、鎮痛剤、点滴の針が突き刺さっている。人生の最後を迎える決死の戦いだ。

ぞくぞくと父ちゃんを死なせまいと仲間たちが集まり、耳元で叫び、足を手をさすり、温めてくれている。「そうだ、父ちゃん! 父ちゃん頑張れ!!」。それに2、3度答えるかのように、父ちゃんは大きく息をした。

血圧急降下。

白衣を着た医者たちも慌ただしく動き回る。さらに呼吸停止間近のため、血圧上昇剤投入、また針が突き刺さる。瞳孔開きっぱなしの瞳で、父ちゃんは何かを探している。

それは6年前天国へ逝った、愛する母ちゃん、「マス子」だ。

俺は人垣をするりとすり抜け父ちゃんの耳元に、かしずいた。1分間に10回も呼吸をしなくなった。

「もういいよ、父ちゃん…見えるね父ちゃん、1人じゃないよ父ちゃん…みんながいるよ父ちゃん。大丈夫だから…安心して。ゆっくりでいいから息をして、そう、そうだ、息をして」

「父ちゃん!父ちゃん!!」。姉ちゃんが泣き叫ぶ。「じいちゃん、がんばれ、がんばれ」。文音(長女・あやね)が、航(長男・わたる)が、蓮(二男・れん)が。そしてみんなが「がんばれ、がんばれ」。

さらに俺は、父ちゃんの耳元で続けた。

「母ちゃんが見える? 父ちゃんが大好きだった母ちゃん見えるやろ、そのままゆっくり息をして、母ちゃんのところへ行っていいよ。ありがとう、父ちゃん…」

4月23日午後10時28分、邦治呼吸停止。

命がけの生との戦いが今、終わった。

「生に勝ったな、父ちゃん」

「生きるに勝ったな、父ちゃん」

「命懸けで生きるに勝負挑んだな、父ちゃん」

柔道五段の大きな背中がこんなに小さくなっても、最期の最期まで生に勝ったな、父ちゃん。俺はマルボウ捜査第4課だった人情刑事の親父に敬礼した。

「父ちゃんご苦労様でした…」

「俺を育ててくれてありがとうございました」

「最期まで息をしてくれてありがとうございました」

そんな父の勇姿に俺は泣けて泣けてしょうがなかった。感謝の念が、こみあげてきた。

集まってきてくれた仲間たちの、大きな大きな優しさがたまらなくうれしかった。そして俺にとってこの父ちゃんが、誇りだったのだと痛感した。

俺が幼い頃柔道五段の黒帯で父の背中におんぶされ、125ccのバイクで、海沿いを突っ走ったあの夏の日の海を想い出した。二人で指宿宮ケ浜に座り、遠く水平線を見つめるおやじの横顔を想い出した。

タバコをくゆらせながら、さらに遠くの水平線を見つめる、おやじの横顔を思い出した。

不意に俺を抱きしめ、「つよし、泳ぐか!」 「うん!!」。夕日が沈むまで、はしゃぎ、笑い、おやじの背中に乗り、肩によじ登り、海へ空へ大きく飛び込み、股をくぐり、浮かんでは沈み、沈んでは浮かび、俺は、でっかい父ちゃんのそばで小さな魚になった。そう、夕日が真っ赤に染まるまで…。

母ちゃんよりも限りなく優しかった父ちゃん。やっぱ、俺はさびしいよ父ちゃん。俺を叱ってくれる人は、何処にいるの? 父ちゃん?

死は音もなくやってきたけれど、父ちゃんは、「ハーッ、ハーッ」という、人間の呼吸の音を高らかに奏でながら、生を主張し続けた。

しかし、命は儚い。儚いからこそ美しい。父ちゃんは桜の花だな。

花の命は見事に短く、瞬時に咲き乱れ、音も立てず、あっという間に散る。美しいのは花の色でもなく、形でもなく、桜という響きでもなく、儚さを知っていながらも咲こうとする、生命力が美しいのだ。

花も木々も鳥も牛も豚も虫けらも、そして我々愚劣な人間も同じだ。儚さは悲しい。しかし、悲しみは力に変わる。

まぎれもなく、俺の父ちゃんは、もくもくと空へ噴煙を撒き散らす、桜島だ! 鹿児島錦江湾に、そびえ立つ、燃ゆる生きた桜島だ。限りなく、優しく、岩のように強い桜島だ。

天国に旅立つ、父ちゃんに、再度俺は敬礼をした。「父ちゃん見てろよ」。俺はさらに、人間賛歌を創り、吠え、高らかに、そしてけだかく、歌い続けよう!!

そして、あなたの元へ、いつか必ず向かう。

待ってろよ、オヤジ。

合掌

サンスポ記事より

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